2023.2月中旬

わこつ。

 

読んだ本

 

田村はまだか (光文社文庫)

文字通り田村を待つ男女5人(と田村)の話。小学校の同窓会のあと、すすきののバーに流れ込んだ5人は、一次会に間に合わなかった田村の思い出話をしながら田村を待っている。

彼らももう40歳。各々仕事がつまんなかったり、離婚したり、いろんな悩みや寂しさがあるけれど、田村の話をしていると昔に戻った気になれる。田村は天才的な人間ではなかったけれど、みんなに一目置かれる存在だった。

5人と俺の年齢は少し離れているけど、過去を思い出すのは現在の悩みから目を逸らせる幸せがあるし、田村みたいなやつっていたな~って思った。

田村はよ来い、大人になった田村どうなったんや、と引き込まれ読めた。あんま長くないしおすすめ。

 

不屈の棋士 (講談社現代新書)

将棋エピソード本。「AIがトップ棋士に追いついた」と宣言された2016年ごろのインタビューをまとめた本。

AIによって将来無くなる仕事~とかってたまに言うけど、まさにAIによって存在意義が問われていたのがプロ棋士たち。ソフトを積極的に受け入れて使う人、まったく使わないことに美学を感じる人、複雑な感情を持ちながら要所で道具として使う人、いろいろな立場の人の意見があった。

自分の将棋にプライドを持って、AIに頼りたくないという心理はとてもよくわかるしそれも美しいことだとも思う。ただしAIが存在する以上、誰かが使うことは止められない。それによって生まれる手に、自分ひとりの研究・発想で勝てなくなってしまうのであれば、使うべきだと思う。棋士として勝利を求められる以上、勝つためにできることはすべて行うのが美しいと思う。

この本が出た後、AI否定派とされた人がタコ負けして、AI積極派とされた人がクッソ勝ってるってわけでもなさそうなのがまた面白い。これからも人間対人間のアツい勝負が生まれるだろうし、棋士のみなさんには各々の道として頑張ってもらいたいなと思う。

 

書籍修繕という仕事: 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる

韓国で書籍修繕の仕事をする人の連載をまとめた本。思い出の日記帳とか、親から子へ受け継がれる辞書とか、思いのつまった本の修繕のエピソードまとめ。この本読んで、俺も昔好きだった絵本があったなと思って押し入れ漁ったら出てきた。すごくうれしい。

 

文学は予言する(新潮選書)

後半の性加害、女性蔑視構造のパートより、なんといってもディストピア小説の再考が面白かった。こないだも動物農園を読んでいたように、俺はこのジャンルが好き。卒論もオーウェル1984年で書いたし、ハクスリーの素晴らしい新世界ももちろん好き。現代に改めてディストピアが流行する意味は…ということでタイトルの予言するって形になってたけど、単純に面白そうなディストピア小説が沢山見つかったので良かった。

 

小説禁止令に賛同する (集英社文庫)

ということで上記で紹介されてた中の一冊。俺の中のディストピアの定義として、「表向きでは平和なユートピアに見えるが、その裏では人間の欲・感情を抑制するためのシステムが支配していて、システムから離脱すると粛清される。」というものを想定してた(その皮肉が面白いし怖さの根源だと思っている)。この作品では迫害されている主人公の視点でしか描写がされていなかったため表向き理想的な社会という姿が具体的には見えなかった。が、この作品のキモはそこではなかったのでヨシ。

近い未来、日本は戦争に負け東端諸島としてどこかの連合に併合される。小説は感情を煽る危険要因だとされ、小説禁止令が出ている。主人公は収監されているが、禁止令に賛同し小説がどれほど危険か、ということを収監者に配布されている「さわやか」に連載する。

主人公はもちろん小説が好きで、小説を批判するという体で書かれている文にも関わらず小説の魅力があふれてしまっている。それは検閲を行っている体制側も承知しており、主人公には処罰をされている描写もある。

主人公に罰を与えるような危険な内容であれば、連載を中断すればよいものの、連載は構わず続けられる。検閲者がこの連載を軽視していて、冷たく処罰のみを行うことが恐ろしい。

終盤に「さわやか」が実際には刊行されておらず、読者がいない可能性を匂わされる。ここで連載が中止されなかったことにも納得がいくと同時に、やはり検閲者の機械的な冷たさにぞっとする。

読者がいることで初めて小説は小説たることを連載で強調していたため、この本の読者である我々は動揺するが、主人公は少なくとも検閲者が読者であることに納得する。

最終的に主人公の行きたつところまではここには書かないけれど、体制側の非情なまでの冷たさに恐怖を感じるとともに、メタ的な要素も絡まって非情に面白かった。

 

推し、燃ゆ

第164回芥川賞受賞作。読んで感想教えてって言われたので読んだ。このシステムは読む本探すのにも助かるからどんどん読んでって言ってほしい。

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」から始まる。勉強が上手くできない、バイトの仕事もうまく回せない。人生がうまくいかない主人公だけど、推しを見て感じているときだけそれを忘れられる。推しを人生の中心に据えて、自分の背骨にしている女子高生のおはなし。

俺もこれまで声優やらアイドルやらも含めいろいろ行くことはあったので、「推す」という文化はわかっているつもりだった。けど応援している人が自分の生きる意味だと思ったことはないし、別に結婚してもショックは受けないし、自分の背骨だとは到底思えない。そういう意味で主人公に共感をすることはなかった。

最後のネタバレはここではしないようにするけれど、この作品がものすごくウケてるのは、「推し」やそれに準ずるものに自分を同化したい、自分を何かに捧げることが生きがいになっている人が多いからだと思う。

そういう人にとってこの本は救いがあるようで残酷で、残酷なようで救いがある、主人公にめちゃくちゃ共感した人がどう感じたか気になる。

短い文章を重ねてたたみかけるようで描写には説得力があったし面白かった。まじで一気に読んだ(眠くなりがちな電車で一気に読んだ)。主人公と俺があまりにも離れていて共感しきれなかっただけで、作者の力量はとても感じたので、別の作品は俺にむちゃくちゃ刺さるかもしれないと思って期待している。

 

以上。読んでほしい本システム採用していきたいので、これがおすすめだよ!とかこれ気になってるけど暇じゃないからちょっと試しに読んでよとか教えてくれたらうれしいです。